日経 2022/01/19

経済安保法案 重要特許は国が非公開に 規程違反に補助金出さず

   政府は19日、今国会に提出する経済安全保障推進法案の骨子をまとめた。先端技術の育成や半導体などの物資を確保するため、国内の基盤を強化する。官民に重要技術の機密保護を義務付け、財政支援をする場合の条件にする。罰則の導入も検討中だ。関係する企業は大きな影響を受ける。岸田文雄首相は経済安保を重要政策に据えており、法案はその柱になる。

  軍事や経済で力を増す中国が念頭にある。米国は各国に軍事転用可能な技術や機密情報の流出を防ぐよう促す。新型コロナウイルス禍では重要物資を中国に頼る構図が各国で問題になった。

  法案は
①特許出願の非公開制度
②サプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化
③先端技術の官民協力
④基幹インフラの安全性の確保――で構成する。
いずれも法規制が遅れる分野だ。米欧を参考に設計する。

  4項目とも技術の振興と流出防止という攻守両面がある。政府が補助金で重要技術の投資を後押しし、企業には漏洩対策の義務付けという守りを求める。利益追求だけでなく国や社会の安全に配慮するよう要請する。

  特許の非公開制度は人工知能(AI)や量子分野、素材などの先端技術の流出を防ぐ。日本で公開された特許を使って他国やテロ集団がサイバー攻撃や兵器の製造をする懸念があるためだ。

  国が審査して「安全保障上、極めて機微」と判断したものに限定して非公開を求める。代わりに企業に想定される特許収入を補償する。保全義務に違反した場合の罰則も検討する。

  半導体や医薬品は「特定重要物資」に指定して、国内での開発を財政面で支援する。経済活動や国民生活に欠かせない製品や材料、部品の供給を他国が絞れば、日本社会が大きな打撃を受ける。自前で確保する体制を整備する狙いだ。

  企業は工場や研究施設の投資計画を国に示して審査を受ける。国の補助を受ける際は国内への供給の確約や情報漏洩の禁止を条件にする。

  先端技術の官民研究は新基金から研究費を補助する。官民で取り組む場合、政府がもつ機微技術を民間にも伝える。民間が漏洩した時に罰則を設ける案がある。 

  通信や電力、航空や鉄道などの基幹インフラの設備や機器は導入前に国の審査を受ける制度をつくる。法案では企業が審査を拒否できない仕組みにする予定だ。 

製造元の外国企業を通じて他国が情報を盗んだり、公共インフラの停止といったサイバー攻撃を仕掛けたりするリスクを減らすためだ。米国は華為技術(ファーウェイ)などの中国製品を重要インフラに使わないよう呼びかけた経緯がある。

骨子は政府の有識者会議の協議を経てまとめた。与党の審査を経て2月中に国会提出する。今国会の会期内で成立させて2023年度にも運用を始める計画だ。

対応を迫られる企業側には賛否両論がある。研究や生産の国内基盤を強化できたとしても、経済活動への国の関与は増えるからだ。有識者会議では「民間が萎縮しないように罰則は最小限に」「規制ではなく企業の後押しを」といった意見が出た。

  経団連の十倉雅和会長は19日、大阪市内で記者会見し「自由主義経済のもと、規制があるならできるだけ予見可能性を与えてほしい」と述べた。「経済界も経済安保は必要だが、足を縛らない形にしてほしい」と語った。

  法案は安保に関する情報への接触を限定する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」を盛り込まなかった。情報を扱う人は民間人でも家族や交友関係などを徹底的に調査される。「人権侵害につながりかねない」との意見もあるためだ。夏の参院選後に検討する。