日経 2021年7月4日 

  防衛省・自衛隊はサイバー攻撃の対処にあたる人材を増強する。2020年度末で660人程度だった自衛隊全体のサイバー関連人員を23年度までに1000人を超す規模に拡大する。NTTなど民間企業の人材を7月1日付で採用し、中国やロシアなどによる攻撃の技術向上に対抗する。

サイバー防衛に関する講義を受ける陸自隊員ら(神奈川県横須賀市)

 サイバー攻撃の手口は巧妙になっている。かつてはネットワークに入り情報を盗み取るだけのウイルスが多かった。

 近年は今年5月の米パイプラインへの攻撃に用いられたランサムウエア(身代金要求型ウイルス)のような手法が広がり、日本国内でも被害が増えている。

 自衛隊の情報通信ネットワークが攻撃されれば全国各地の部隊の活動や装備品の利用が停止しかねない。防衛上の機密情報が外部に漏れる可能性もある。こうした事態は国の安全保障に重大な影響を及ぼす。

サイバー防護のイメージ
  全自衛隊のサイバー部隊の規模
全自衛隊のサイバー部隊の規模

 防衛省は量と質の両面で対策を強化する。まず量の確保を急ぐ。18年度末時点で全自衛隊共通の情報基盤を守る共同部隊と、陸海空それぞれのサイバー部隊は計430人だった。段階的に増やして、21年度末に800人と3年前の2倍にする。22年度以降も増員を継続し、23年度に千数百人規模に拡大する方針だ。22年度予算の概算要求に関連費を計上する。

 22年に組織を改編し「自衛隊サイバー防衛隊」をつくる。陸海空に分かれている機能を集約し、自衛隊のサイバー防衛全体を統括する形にする。人材を効率よく配置し、限られた人員でも能力を発揮できる体制にする。
 21年度には陸上自衛隊の高等工科学校(神奈川県横須賀市)にサイバー専修コースを設けた。サイバー業務の基礎となるプログラミング言語などを習得し、将来の担い手にする。

高度化するサイバー攻撃に備えるため、外部の知見も活用する。7月からNTTとサイバーセキュリティー大手のラックの2社から1人ずつ「サイバーセキュリティ統括アドバイザー」として採用した。企業に籍をおいたまま非常勤で週2~3日、防衛省で勤務する。
NTTは連結ベースの従業員数が30万人を超す。巨大組織を防御するには各従業員がサイバー防衛の意識を持ち、経営層や幹部にもサイバーに関する知識を備えた人が必要になる。20万人を超す自衛隊もNTTのノウハウを取り入れ、人材教育の仕組みを検討する。

 セキュリティー専門企業からは高度なサイバー攻撃技術を学ぶ。現行の自衛隊員向け海外研修などに加え、最先端の知識や技術を持つ専門家から攻撃への対処力を高めるための知見を習得する。待遇は非公表だが、防衛省は21年度予算でアドバイザー採用に2000万円を確保した。
 同盟国である米国とも協力する。海上自衛隊は6月、護衛艦「いずも」上で米海軍とサイバー攻撃の対処訓練をした。山村浩海上幕僚長は「米海軍の方が先行している。お互いのやり方や思想を意見交換したのが大きかった」と話す。
 現代の艦艇は常にネットワークとつながった状態で航海する。海上で使う通信に脆弱な部分があればウイルスが侵入するリスクが増す。船の整備に使うUSBメモリーなどを介してウイルスが入り込み、船の操縦システムに影響を与える事態も想定される。

英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が先月発表した報告書では、日本のサイバー能力は3段階で最も低い「第3グループ」とされた。特に安保分野での指摘が目立った。

 中国やロシアは陸海空の物理的打撃に、サイバーや電磁波を組み合わせた攻撃手法に力を入れている。なかでも中国は3万人のサイバー攻撃部隊を持つとされる。自衛隊のサイバー分野の人員拡充や能力向上、米軍との連携に取り組む重要性は一段と増している。

(安全保障エディター 甲原潤之介)