2020/8/27付日本経済新聞

 米軍は1月、イラクの首都バグダッドでイラン革命防衛隊の司令官を無人機(ドローン)からの攻撃で殺害した。トランプ大統領はこの時、ドローン操縦士からの通信模様を得意げに披露した。「彼らの命はあと1分です…10、9、8…そして突然、ドーンだ」た。 

 最先端のドローン戦術を見せつけた米国は、一方で敵のドローンからの防衛技術の開発を急ぐ。

米軍は戦場での偵察などにドローンを活用
米軍は戦場での偵察などにドローンを活用

 米太平洋艦隊は5月、揚陸艦「ポートランド」からレーザー兵器を試射し、ドローンの無力化に成功したと発表した。高出力レーザーで熱を当て、機体を破損させる。レーダー網をくぐり抜けて忍び込んでくるドローンや、武装した小型船といった「ローテクの逆襲」に身構える。

 米軍がアフガニスタンやイラクでの対テロ戦で磨いてきたドローン技術は急速に世界に拡散した。軍事用ドローンの保有国は世界で100カ国近くに広がっているとされる。

 ドローンはいまや廉価な家庭用玩具にまで普及した。先端を行く米軍兵器とは比べものにならない「ローテク」ながら、テロ組織までドローン戦術を手に入れた。過激派組織「イスラム国」(IS)は250ドル程度の中国製の市販ドローンに手りゅう弾を搭載させた攻撃に出た。

 2019年9月、サウジアラビアの石油施設が攻撃され、同国の石油生産が一時半減した事件は軍関係者を震撼(しんかん)させた。

 イエメンの武装組織フーシがドローン10機を使って攻撃したと犯行声明を出したのだ。後ろ盾であるイランの関与も疑われるが、どこから発進し、サウジに侵攻したのか分からない。

 サウジの軍事予算は700億ドル規模で米中に次ぐ世界3位。なぜインフラへの打撃を防げなかったのか。サウジが配備する米独仏の高度な対空防衛システムが、低空飛行するローテク小型ドローンの迎撃を想定していない実態が浮かぶ。渡り鳥と誤認されやすい小型ドローンをレーダーで見落とした「ヒューマンエラー」を指摘する声もある。

 この事件は日本にも衝撃を与えた。「戦いを変えるゲームチェンジャーだ」。河野太郎防衛相は19年、サウジがドローン襲撃を受けた直後、対策強化を指示した。妨害電波によりドローンの飛行能力を無力化する方法や、米国と同様のレーザー兵器で落下させる技術の開発を急ぐ。

 20年版の日本の防衛白書は近未来の脅威に触れている。人工知能(AI)を搭載し独自に状況判断できる自律型ドローンが群れとなる「スウォーム飛行」による軍事攻撃を挙げ、現実になれば「従来の防空システムでは対処が困難になる」と警戒する。

 自律型ドローンに妨害電波は効かず、攻撃者の特定すら難しい。20年の米国防権限法はこれまで控えてきた戦闘へのAI活用に向けた研究促進を盛り込んだ。

 人工衛星の打ち上げでソ連に後れを取った1950年代の「スプートニク・ショック」以来、常に軍事技術で他国に先行するという米国の方針は一貫している。

 米国防総省顧問を務める新米国研究機構のピーター・シンガー上席研究員はハイテク戦術を誇示するトランプ政権が直面するジレンマを指摘する。「技術は拡散し、むしろ防衛に注力せざるをえなくなる」