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DIAMOND online 2022/04/5
戦力で大きく劣るとされていたウクライナ軍が、ロシア軍に善戦していることは驚きをもって報じられている。その要因の一つが「ドローン」の活躍だ。しかし、ウクライナ危機の前まで防衛省では「ドローンは戦場では使えない」という意見が主流だったという。日本の防衛政策の抜本的見直しが急務だ。(イトモス研究所所長 小倉健一)
●ウクライナ大善戦の立役者「ドローン」 3種類が対ロシア戦で活躍中
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、軍事作戦の重点をウクライナ東部に移すと発表した。ウクライナ東部のマリウポリの掌握に向け、攻勢を強めている。また、「作戦を大幅に縮小する」とした首都キーウ(キエフ)周辺でも軍事的な圧力を維持しており、依然として緊張が続いている。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の当初のもくろみだった「数日間でウクライナの主要拠点を制覇する」は、完全に崩れ去り、各地でロシア軍の苦戦と士気低下が指摘されている。このウクライナ軍の大善戦とも呼ぶべき事態の要因の一つに、「ドローン」の活躍がある。ウクライナで活躍しているドローンにはいくつか種類があり、それぞれを簡単に説明していこう。
●トルコ発の武装ドローン「TB2」 1機当たり数億円以上
一つ目は、トルコで開発された武装ドローン「TB2」だ。TB2は、地上の管制車両から操縦して最大27時間も飛行でき、武装は対地ミサイル、精密誘導爆弾を持っている。TB2は1機当たり数億円以上するもので、リビアやアゼルバイジャンで多くの戦果を挙げてきた。現状、ロシア軍は予想に反して航空優勢(敵から大きな妨害を受けることなく、自軍の諸作戦を遂行できる状態のこと)を奪取できておらず、TB2は自由に飛び回っている。さらに、TB2が自由に飛び回ることでロシア軍はさらに航空優勢を獲得しにくい状況 が生まれているのだ。軍事情報サイト「Oryx」で公開された写真・動画の集計によれば、4月3日現在、以下のロシアの標的がTB2によって破壊、または制圧されたという。
[・装甲戦闘車両6両 ・火砲5門 ・多連装ロケット砲1両 ・地対空ミサイルシステム10基 ・指揮所2カ所 ・通信施設1カ所 ・ヘリコプター9機 ・燃料輸送列車2両 ・トラックやジープなど車両24両}
Oryxによれば、上記は写真・動画の証拠が確認できるものをリストアップしただけにすぎない。安全保障アナリストの部谷直亮氏によれば、「一説には6億ドル以上の損害を与えた」ともいう。(『ウクライナの善戦を支える「ドローン」がロシア軍を次々と撃破する理由とは』、※1)
●「コストコドローン」と 「カミカゼドローン」の正体とは?
二つ目に説明するのが、日本の一般家電量販店でも買える民生ドローンだ。私が「ヤマダ電機でも買えるドローン」と記事で書いたところ、大反響となった。もちろんこのドローンは、ヤマダ電機でもビックカメラでもAmazonでも買える(米軍のある将校は「コストコドローン」と呼んでいる)。こちらは1機数万円から数十万円という破格の安さだ。偵察に向いており、ロシア軍が保有する火砲(自走砲・けん引砲・重迫撃砲・多連装砲)を空中から発見して、そこへミサイルを撃ち込む。防衛省で情報分析官を務めた軍事アナリストの西村金一氏の分析によると、3月18日時点で「ロシア軍が保有する火砲の損耗率は、14%」(『壊滅の可能性もあるロシア地上軍、短期間に高い損耗率』、※2)と大きな戦果を挙げている。
最後に紹介するのが、米国からウクライナへの軍事支援に含まれていた攻撃ドローン「スイッチブレード」だ。米国はこのドローンを100機、ウクライナへ供与するという。このドローンは、高性能のカメラと赤外線センサーによる偵察機能に加えて爆弾を装備している。目標に突入して破壊する「自爆ドローン」として知られていて、欧米などでは「神風ドローン」と呼ばれている。現地発のメディアによれば、空中を飛び回って自分たちを監視するウクライナ・ドローンの機械音におびえ、逃げ惑うロシア兵たちの姿が目撃されているという。コストパフォーマンスの高い戦果に加えて心理的な脅威にもなっているのだ。
●中国はドローン兵器の開発と 軍事作戦の強化を明示
このように大戦果を挙げるドローンに、日本の自衛隊も重い腰を上げ、来年度から攻撃型ドローン(無人機)の運用に向けた本格的な検討に乗り出すことになった。しかし、本格導入には程遠い。日本の軍事有識者の多くが、これまでドローンの有効性に懐疑的だったことが一因になっているようだ。しかし、お隣の国・中国は、ドローンの有効性についていち早く目をつけ、本格導入に取り組んできた。中国の習近平国家主席が2020年7月に吉林省にある中国人民解放軍空軍航空大学を訪問した際に行ったスピーチを、学術研究員・著述家の佐藤仁氏が詳細に報じているので引用したい。
「習主席は『中国人民解放軍は攻撃を行うための小型無人ドローン兵器の開発と軍事作戦を強化して、実戦をイメージして戦争に勝つための訓練と人材育成に注力すべきだ』と主張。さらに『強い軍隊なくして、強い中国はない。どのような敵に対しても決して恐れてはならない』と鼓舞した」(『習近平国家主席「中国人民解放軍は小型ドローン兵器の開発を強化すべき」空軍航空大学にて』、※3)その他、同記事では、「ドローンは兵器として攻撃用だけでなく、偵察や諜報活動にも活用することができる。特に小型ドローン兵器は大型ドローンよりも低価格で大量生産が可能である」と指摘されている。
●ウクライナ危機で安保に大きな不安 日本の防衛政策転換は急務
日本の防衛政策は「米国による核の傘」があるという前提で進められてきた。今回のウクライナへのロシア軍の侵攻で、米国は「ロシアと直接戦争をしない」と繰り返し強調しており、日本の安全保障への大きな不安が顕在化しつつある。 国際紛争を解決するための国際法が軽んじられる中、「核保有国同士は戦争をしないこと」だけは国際社会で再確認された。しかし、世界唯一の被爆国・日本が核を持つという選択肢は、日本でほとんど論じられないまま議論が収束していきそうな情勢だ。では、どうやって日本人の生活と安全を守っていくのか。「ドローンは戦場では使えない」などという前近代的な議論、これが22年1月までの防衛省幹部の主流だったというから驚きだ!そうした偏見を捨てて、ウクライナの戦地から大きな学びを得なくてはならない。防衛政策の抜本的見直しが急務だ。
小倉健一
【参考文献】 ※1 部谷直亮.『ウクライナの善戦を支える「ドローン」がロシア軍を次々と撃破する理由とは』.文春オンライン,(22年3月23日配信) ※2 西村金一.『壊滅の可能性もあるロシア地上軍、短期間に高い損耗率』.JBpress,(22年4月1日配信) ※3 佐藤仁.『習近平国家主席「中国人民解放軍は小型ドローン兵器の開発を強化すべき」空軍航空大学にて』.Yahoo!ニュース個人,(20年8月20日配信)
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