[14日 日経新聞]

  政府は今秋にもまとめる新たなサイバーセキュリティ戦略で、サイバー攻撃への危機感を打ち出す。サイバー攻撃を国家のリスクと位置づけ、重要インフラを防護する必要性を訴える。新型コロナウイルスを契機とする社会のデジタル化で被害が拡大しやすくなる状況に備える。

政府のサイバーセキュリティ戦略本部が13日の会議で新戦略の骨子を策定した。本部長を務める加藤勝信官房長官は会議で「サイバー空間が国家間の競争の場になっている。外交・安全保障上のサイバー分野の取り組みを優先して進めていく」と強調した。

中国・ロシア明示
 今回の骨子の特徴はサイバー攻撃の脅威国として中国、ロシア、北朝鮮を明示した点だ。中国は軍事企業や先端技術を持つ企業から情報を盗み取るため、攻撃をしかけていると指摘した。ロシアは軍事・政治的目的の達成、北朝鮮は外貨獲得を理由に攻撃していると記述した。現行の戦略には具体的な脅威国は記されていない。「国家の関与が疑われる事案も出てきている」などと抑えた書き方をしていた。表現の変化の背景には、サイバー攻撃の安保上のリスクが高まっているとの政府の警戒がある。

新戦略の骨子
新戦略の骨子

  新たな骨子はサイバー攻撃で「国家や民主主義の根幹を揺るがすような重大な事態が生じ、国家安全保障上の課題へと発展していくリスクをはらんでいる」と書き込んだ。この3年間で深まった米国と中国の対立はサイバー空間にも波及する。3月には米マイクロソフトのメールシステムを標的とした攻撃が広がった。同社は中国政府が支援するハッカー集団による攻撃だと分析した。

日本政府がこうした事象を安保上の課題として重視するのは、サイバー攻撃が物理的被害をもたらす恐れがあるためだ。典型例としてインフラへの攻撃があげられる。今月には米国でパイプラインがサイバー攻撃によって停止し、政府が緊急の輸送措置をとる事態になった。原子力関連施設や航空管制、ダムへの攻撃も、メルトダウンや航空機の墜落、水害などをもたらす可能性がある。サイバー攻撃は国際法上、武力攻撃とみなせる場合があるとされる。

官民で計画共有
現行の戦略では重要インフラの防護について「各主体が自主的な取り組みを進める」と書くにとどめている。原発などのインフラ施設のサイバー防衛は原則として民間企業の役割で、国はそれを「積極支援する」との書きぶりだ。新戦略の骨子は表現を強めた。国が重要インフラの防護に「責任を有する」と盛り込み「官民連携に基づく防護の一層の強化を図る」と記載した。官民で共有する行動計画をこまめに改定するよう求めた。今回の骨子はサイバーセキュリティーを日本の外交・安保戦略の一環として位置づけている点も特徴といえる。日本がサイバー攻撃を受けた際の日米同盟の役割を明記したのがその一例だ。日米両政府は2019年、サイバー攻撃が米国の日本防衛義務を定める日米安全保障条約5条の適用範囲になると確認した。この経緯を書き込み「日米同盟の抑止力を維持・強化する」と記した。政府が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」の文言も加えた。米国、オーストラリア、インドを含めた4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の協力をサイバー分野でも推進すると盛った。日米を基軸に民主主義や法の支配といった共通の価値観を持つ国と連携するという日本の外交方針をサイバー戦略に反映させた。サイバー空間でも日米欧が国際秩序の形成を主導していく姿勢を鮮明にした。

(安全保障エディター 甲原潤之介)